だらり庵の本棚

【#だらり庵の本棚 4】踏んだことのないところだらけの世界を面白がる 近藤聡乃『ニューヨークで考え中』

「考える」とはなんだろうかと考える。なんのために「考える」のだろうか。社会がよりよくなるために? 幸せで明るい未来を掴み取るために? 誰かを幸せにするため? お金を儲けるために? いずれもYesだろう。どれが正解だとか言えないけれど、僕たちが生きている限り何かを考えることから逃れることは不可能だということだけは確からしく思える。何も考えていないようで僕たちの脳は生きていくために常に稼働している。

でも稼働している頭を意識してしまうと、どうしたって疲れてしまうから、僕たちは考えることから目を逸らしがちだ。だから日々「面白そうな何かへのきっかけ」は僕たちの手のひらから湯水のようにこぼれ落ち続けている。この1冊しか知らないけれど、近藤聡乃さんはその「きっかけ」を掬い取ることに長けた人なのだと思う。「未踏の地」というタイトルの冒頭の4ページ。ここに全てが詰まっている。

初夏、洗濯のためにコインランドリーに向かった近藤さん。暑さを回避するために向かいの通り、建物の陰にてててと走る。そして「こっち側を歩くのは はじめてだな」と思う。

こんな目と鼻の先に 踏んだことのない場所があったなんて……

……でもまあ よく考えたら 家の中にだって 部屋の隅っことかに 踏んだことのない部分があるんだろうけど

この感覚がたまらなく好きで、本屋で10秒立ち読みして、そのまま回れ右でレジに向かった。買いたい本を見つけてからもしばらくは店内を放浪する僕には珍しいことだった。

正直なところ舞台がニューヨークだろうが、パリだろうが、ガンビアだろうがこの人のまなざしは変わらないと思う。近藤さんはどこでも踏んだことのあるところと、踏んだことのないところを引き比べて、その差を面白がるのだろう。勘違いしてはいけないのは、どちらが良いとか悪いとか、そういうことではない。あくまで面白がるために踏んだことのないとことに目を向ける。そんな風に生きてみたい。

シンプルに漫画のタッチも大好きだ。少しニヒルないたずらっ気を現代的な「鳥獣戯画」風味な線で描く脱力感がたまらない。各話2ページ。1日1話でも、一息にでも心地よく読み進められる1冊。どうやって読むのが1番楽しめるかって? それは今も考え中だ。

まず穏やかなピンクの表紙に心惹かれる