ホントレート

【#ホントレート 39】恐れるな。推せるなら、推せるところまで推すのがホンモノだ。ゴーラー ニシマツの撮っておきの1冊

皆さん、こんにちは。今日もだらだらしてますか?

「人生に寄り添う1冊を楽しむ人の様子を写真に残したい」

そんな想いと共にスタートした撮っておきの1冊「本とあなたのポートレート」、略して「ホントレート」

39回目となる今回は、名古屋を拠点に、季節を問わずかき氷を追い求めるかき氷好きが教えてくれた1冊です。

今回はホントレート史上初となる“出版レーベル推し”に導いてくれたという本を紹介してもらいました。作家を応援するために別の出版社から出た同じ本を買うという愛し方、いったいどんな「撮っておきの1冊」だったのでしょうか、早速教えてもらいましょう。

お話を伺った人

ニシマツさん

1990年生まれ。名古屋を拠点にかき氷を食べ歩く「ゴーラー(かき氷愛好家)」 運営する名古屋かき氷めぐりでは、彼が季節を通して出会った魅力的なかき氷が王道から変わり種までカラフルに紹介されており、宝石箱を覗いているかのよう。すらりとした体躯に和装がとてもよく似合う。

成長を見守る楽しみを教えてくれた、1冊。

「読み終わって、本閉じて、表紙見て、切な……って感じの本」

そんな紹介から始まった今回のお話。ニシマツさんが持ってきてくれたのは芝村仁『プシュケの涙』でした。10年ほど前に出会ったというこの本は、2009年よりKADOKAWAが発行している文庫レーベル、メディアワークス文庫に座を連ねる1冊。

今でこそ『ビブリア古書堂の事件手帳』など、よく知られた作品もありますが、ニシマツさんが『プシュケの涙』との邂逅を果たした当時は、まさに創刊したばかりのタイミングでほとんど世に知られていなかったのだといいます。

「初めて読んだのが20歳前後くらいだったから刺さったっていうのもあるかも。当時の自分みたいな、電撃文庫とかのライトノベルを卒業するくらいの年齢になった人たちをターゲットにする感じで、コンセプトがしっかりしてる印象だった」

ライトノベルほど軽くはなく、純文学ほどは堅くない、読みやすい文章だったこともあり、この『プシュケの涙』をきっかけとしてメディアワークス文庫から刊行された作品を読み漁るようになったというニシマツさん。毎月7冊ほどが発売され、その中から気になったものを3,4冊ほど買って楽しんでいたのだそう。産声をあげたばかりのレーベルということで、執筆陣は無名の作家ばかりだったようですが、そこでニシマツさんは新しい楽しみを見出します。

「無名の作家さんばっかりで、このメディアワークス文庫がデビューみたいな、そういう人も多いんだけど、そういう人がいろいろ積み重ねていって、今映画の脚本とか手がけていたりするのを見ると、なんか胸にくるっていうか、推しの作家さんがどんどん成長していくところを見守れるのが嬉しい」

メディアワークス文庫だけで100冊以上を読んできたというニシマツさん。同一のレーベルだけで、それほどの数を読むというのはすごいことではないでしょうか。よほどコンセプトがハマったようです。

別な出版社から発売された版も買った、1冊。

それまで読んでいたライトノベルについては「もうこのノリはお腹いっぱいかなみたいなところに辿り着いていた」のだそう。ラノベの代名詞ともいえる挿絵もなく、これまでの読書体験とは随分違う印象を抱き、すっかりメディアワークス文庫にハマってしまったニシマツさんは本屋さんに走りますが……?

「当時のメディアワークス文庫は本屋に買いに行っても全然レーベルのコーナーがなくて、だからネットでしか買えなくてすげー悔しかった。だけど年月が経つにつれて着実にメディアワークスの一角ができていくっていうのも楽しかった。そのきっかけが多分『ビブリア古書堂の事件手帳』 あの作品で一気に認知度が高くなった気がする」

創刊当初から見ていると、歴史の積み重なりをリアルタイムで追うことができるんですね。既存の出版社、レーベルの本を購入することが多い僕にはそういう視点はありませんでした。

気に入った本は読み返すタイプだというニシマツさん。『プシュケの涙』もご多分に漏れず、幾度も読み返してきたといいます。続編に当たる『ハイドラの告白』『セイジャの式日』などを読んだ後にも読み返すそうですが、講談社文庫から発売されたバージョンも購入したというから驚きです。どうしてそんなことを……?

「昔、有川浩さんが本は新品で買ってほしい、新品で買わないと出版社や著者にお金が行かないからというようなことを言っているのを聞いて、なるほどと思って。だから、応援する意味を込めて、本はほとんど新品で買ってる。好きな作家さんがいたら、続編とか新作とか出してほしい。書いてもらいたいから。そのためにはお金とか必要だよね。ってなると発売日にどれだけ売れるかっていうのは大事な気がするから、発売日に買いに行く」

買う人がいないとモノは作れないのだと話すニシマツさん。専門書などでないかぎり、本はそこまで高価なモノではないので、なおのこと新品で購入したいのだといいます。

「ちょっと高いなあと思う本でも3,000円ぐらい。それでね、好きな人を応援できるんだったら喜んで買うよって」

そう言って笑うニシマツさんは、『プシュケの涙』と出会っていなければ読書そのものにそれほどハマっていなかったかもしれないといいます。それでも結局は他のメディアワークス文庫の作品から『プシュケの涙』には辿り着いていかもしれないとも。

「よくやるのは表紙買い、作者買い、そしてレーベル買い。レーベル買いはね、本当にオススメ。本棚に並べた時に統一感が生まれるし、高さも背表紙も揃って気持ちが良い。そして何よりテーマがある」

「撮っておきの1冊」を起点にして楽しむ世界を広げていったというニシマツさんのお話に、またひとつ読書の新たな可能性を教えてもらったような気がしました。

撮影を終えて

ニシマツさんの発信する情報はどれも「好き」が溢れていて、いつも楽しませてもらっているのですが、その「好き」を原動力として動く彼の内側にあるものに少し触れることができたように思いました。ジャンルを問わず、好きだと思ったものに注ぐエネルギーの迫力はなかなか類を見ないニシマツさん。好きなものについて語る彼を見ていると、こちらまで情熱をおすそ分けしてもらえたような気がしました。また一緒に熱いパトスを持ってかき氷を食べに行きたいものです。

というわけで第39回目のホントレートはここまで。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。今後も素敵な人や本との出会いを期待して、バイバイ!

あなたと大好きな1冊の姿を写真に残しませんか?

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