ホントレート

【#ホントレート 25】なんだかんだ、愛してる。園芸家クリハラの撮っておきの1冊

皆さん、こんにちは。今日もだらだらしてますか?

どうも、だらり庵 庵主のクロギタロウです。

「人生に寄り添う1冊を楽しむ人の様子を写真に残したい」

そんな想いと共にスタートした撮っておきの1冊「本とあなたのポートレート」、略して「ホントレート」

25回目となる今回は、好きなモノに対するまっすぐな情熱が気持ち良い、黄金麦酒紳士が教えてくれた1冊です。

その本が好きすぎて、人にオススメするために自身の本を都度3回も渡して、今では4代目になるというほどに好きな本とは、いったいどんな「撮っておきの1冊」だったのでしょうか、早速教えてもらいましょう!

お話を伺った人

クリハラさん

1985年東京生まれ。東京都在住。ガンダム、料理、カメラに植物と趣味の幅が広く、そのどれにも持ち前の探究心と深い愛情を注いでいる。その愛が結晶化した偏愛ブログ「私的植物生活論」は鋭い文章と類稀なるウィットが痛快。庵主が初めてファンとしてブログを読み始めた方。人当たりの良い、穏やかな物腰と端正なそのルックスからは想像できないほどにビールを飲む。

勧められても人は読まない生き物だから、もう買って渡すことにしました。

「いろんな人にこの本めっちゃ面白いよって勧めてきました。でも、勧められても人ってそんな簡単に読まないでしょ? だからもう買って渡した。あげまくってるから、今私の手元にあるのは4冊目」

これまで本を紹介してくださったどの方とも違う衝撃的な言葉に驚きを隠せません。クリハラさんが並々ならぬ思い入れと共に持ってきてくださったのが、いとうせいこう『ボタニカル・ライフ』 庭はなくとも植物は育つ。都会の片隅、ベランダでふとしたことから花を育てるベランダーとなった著者いとうせいこうの、熱心なのかそうじゃないのかよく分からない植物ライフを綴ったエッセイ集です。第15回講談社エッセイ賞。

NHKでは「植物男子ベランダー」というタイトルでドラマ化もされている本作。

「NHKのコンテンツで、ごちそんぐDJ(DJみそしるとMCごはんがおくる音楽&食番組)と植物男子ベランダーは本当に嫉妬するコンテンツ。なんで私はここに携わってないんだ!と怒りがこみ上げるレベルに悔しかった」

のっけからフルスロットルで愛を語ってくれました笑 彼が『ボタニカル・ライフ』と出会ったのは仕事をしたり休んだり、フラフラしていた時期のちょうど仕事をしていない周期のこと。

家からちょうど15分の図書館に休館日をのぞいて、毎日通っていたそうです。図書館ではあまり頭を使わないで済むような本ばかり読んでいたというクリハラさん。お好みはさくらももこさんなどのエッセイだったといいます。

図書館でたまたま『ボタニカル・ライフ』を見つけて、何だろうなこの本はという感じで手に取ったのだそう。いとうせいこうさんの斜に構えた感じが、さくらももこさんに通じるところもあり、一読して面白いと思ったといいます。もともといとうせいこうさんがこういう本を書いているとは知らなかったそう。

「ジャケ買いですよね。あ、ジャケ借りか、図書館だから笑」

図書館でのジャケ借りから幾星霜。3人もの人間に手渡すことになるほどこの本を愛することになるとは、当のクリハラさんにも想像できていなかったことでしょう。

かけただけの愛情? そんなものより良い水、良い光、良い空気でしょう。

もともとお母様が植物をベランダで育てるのが好きだったというクリハラさん。彼自身も大学で造園系の勉強をしていたといいます。そこでは庭園や広場の設計、デザインを学んだのですが、植物を育てるという領域ではなかったようです。学生時代にも勉強を兼ねて近所の花屋さんでアルバイトをしていたそうなのですが、真剣に植物のお世話を始めたのは『ボタニカル・ライフ』を読んでから。

自身でも植物を育てているうちに、「私も記録をとった方が面白いな」と思い、ブログを始めたのだといいます。育成の記録というよりは、この本のようなエッセイが書きたいと思ったそうなのですが、文章は全然敵わないから、せめて載せる写真ぐらい頑張ろうと思い、今の形になったのだそう。僕の大好きな「私的植物生活概論」の誕生秘話についても伺うことができるなんて…! すみません、1人静かに感激していました。

『ボタニカル・ライフ』に対し、並々ならぬ思いを寄せるクリハラさんですが、最も印象に残っているのはどの植物についてのエッセイなのでしょうか。

「この、植物が死んじゃうのが良いよね」と、驚きの良い笑顔で語ってくれたのが、この本の1番最初に位置する「アロエ」のお話。

「すごいんだよこれ。横断歩道の近くに落っこちてたアロエを拾ってニヤニヤして、土に挿してもニヤニヤ、そして唐突に最後枯れちゃう。こんなアホみたいな話を2ページ分使って書いちゃう。オープニングに持ってくる話として、ものすごく衝撃を受けた。すげー面白い」

白状しますと、僕はクリハラさんのブログで『ボタニカル・ライフ』を知り、読んだ口なのですが、この「アロエ」の話は本当に面白いです。この上なくアホくさいのに、淡々とした筆致で綴られている。多分これを書くために机に向かっていたいとうせいこうさんも死ぬほど無表情で書いていたんだろうなあ、と思うぐらい淡々としています。でも面白いのが悔しい笑

各植物の魅力的なエピソードはもちろん大好きで、見出しを見ただけで内容が思い浮かぶほどに読み返してきたというクリハラさん。特に枯れゆく植物に何もしてやれることはないというくだりが好きなのだといいます。

「かけただけの愛情に応えてくれるとか、そういう系がすごく嫌いだから……嫌いって言っちゃまずいな笑 植物はすぐ美談と絡められちゃうから、みんなちゃんと教育を受けた方が良いよね。愛情よりも水と光と空気の方が大事なんだから。いとうせいこうも私が今言ったようなことを言うんだけど、なんやかんや彼は植物を愛してるからね。でも自分では絶対そんなこと言わない笑」

この本には、「そうじゃなきゃいけない」「そうあるべき」というのが一切ないそうなのですが、「私も結構根が真面目だから、こうしなきゃいけない、こうあるべき!みたいに自分を縛りがちだったんだけれど、最近はそんなこともない。公序良俗に反したりしなければね」とクリハラさん。

変にこだわりが強くなってしまう自身の中にあるオタク気質なところを自覚しているというクリハラさん。それが割と柔軟な考えになったというのは、『ボタニカル・ライフ』の影響もあるといいます。これまでひたすら嫌っていた納税も、いくらかが回り回って都市公園の管理に当てられていると思えばこそ、まだギリギリ納税できるのだそうです笑

植物も、ひとくちに育てるといっても、毎日そんなにやることはなく、勝手に育つというクリハラさん。趣味の一つである手芸と違って、思った通りにいかないけれど、思ってもみないものを見ることができるから、植物は面白いといいます。

全てが思い通りに行くと勘違いしがちな僕たち人間に鉄槌を下すわけでもなく、ただそこにいる植物たち。物言わぬ彼らと暮らすクリハラさんの元にある『ボタニカル・ライフ』が何代目までいくのか、楽しみです。

撮影を終えて

クレマチス、シーボルト、牧野富太郎について歴史上のエピソードなどを織り交ぜつつ語ってくださったクリハラさん。かと思うと「最近はグレープフルーツを食べた後に種を埋めて、芽が出たよ」と無邪気な笑顔。クルクルと展開する植物絡みのお話の全てをここに掲載できないのが残念なくらい、楽しい時間を過ごすことができました。

また綺麗な星を眺めながら、黄金の麦酒を味わいたいものですね。

ちなみに4代目『ボタニカル・ライフ』は、この撮影に同行したしゅんさんぽの元に渡ることになりました。そろそろ感想文が届くことでしょう。

というわけで第25回目のホントレートはここまで。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。今後も素敵な人や本との出会いを期待して、バイバイ!

ホントレートについて ホントレートは「本とあなたのポートレート」を省略したもの。庵主であるクロギタロウの造語です。本をたくさん読む人も、そうでない人にも人生...

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