ホントレート

【#ホントレート 42】これが私と生きる武器。「神戸ファインダー」Akiの撮っておきの1冊

皆さん、こんにちは。今日もだらだらしてますか?

「人生に寄り添う1冊を楽しむ人の様子を写真に残したい」

そんな想いと共にスタートした撮っておきの1冊「本とあなたのポートレート」、略して「ホントレート」

42回目となる今回は、神戸とカメラの魅力がふんだんに詰まったブログを運営するブロガーが教えてくれた1冊です。

大学時代、学友たちと火花を散らしながら議論を展開するための礎となったその本は、予期せぬ形で社会へと漕ぎ出さざるを得なくなった時にも自身の武器として共に闘ってくれたのだと、彼は言いました。いったいどんな「撮っておきの1冊」だったのでしょうか、早速教えてもらいましょう。

お話を伺った人

Akiさん

1989年神戸生まれ。神戸とカメラの魅力を発信するブログ型情報ウェブサイト「神戸ファインダー」を運営。レジャー・観光・グルメなどなどジャンルにとらわれず神戸を訪れる人の役に立つ情報を日々発信している。外の世界に憧れを抱き、神戸を離れた大学生時代にカメラと出逢う。留学中にも毎日のように持ち歩くほど写真に夢中に。外の世界を知った後、海外や東京にはない地元の魅力に気付き、相棒のカメラと神戸の情報を発信するように。ブログ運営のほか、カメラマン・日英翻訳の仕事を手がける。

科学するということについて考える視座を与えてくれる、1冊。

穏やかな様子で自らを「論理ベースで考え過ぎかもしれない人間」だと評するAkiさん。彼の運営するブログを読むと、確かに破綻や矛盾のない文章の構成が心地よく感じられます。ロジックを重んじる方なのだろうな、と思わずにはいられません。

そんなAkiさんが紹介してくれたのは講談社現代新書、高根正昭『創造の方法学』でした。1979年の出版でAkiさんよりも年上です。

「理論の構築と研究法との基礎になる方法論」を非常に重要な科目だと考える著者。

日常の生活や職場で出会う問題を自分で整理し、考えそして解くための手引きとなるような書物が、必要なのではないか。本書はこのような経験と考えから生まれた、広い意味での方法論の手引きである。

『創造の方法学』あとがきより

なるほどAkiさんの整理された文章の秘密の源泉がありそうな匂いがしますね。

「これは大学の授業で使ってたんだけど、1つの授業だけでじゃなくて、複数の授業でいろんな先生が参考図書にしていた気がする。読んでみて相性がいいな、この本面白いなって思って、この系統で行こうってゼミも選んだんだよなあ」

なるほど出逢ってすぐさま相性の良さを感じるなんて羨ましいです。ところがAkiさんが大学で所属していたのは政治経済学部の政治学科。一見するとあまり『創造の方法学』との関連は見えてきません。Akiさんも関係はないと笑います。

「広く言うと社会科学っていうジャンルがあってその中に政治経済学があるんだけど、これは社会科学全般の勉強の仕方、方法論を学ぶためにすごくちょうどいい教材として用いられている本、科学するということを考える本なんだよね。文系ってどうしてもサイエンス的な手法をとりづらい。なかなか実験みたいなことはできないし」

確かに、僕もバリバリの文系でしたが、実験的なアプローチで課題に取り組んだことはなかったような気がします。

「なんだけど、だからといってそれを諦めてしまったら、ただの印象論とか調べ学習になっちゃいません?っていう問題があると思う。その中で、じゃあどうやればできるだけ科学的な要素を取り入れて、客観的な仮説を立てて検証できるかということを勉強しないといけないよねっていうことが割と書いてある」

おお、なんだか難しいお話になってきました。怯む庵主にもAkiさんはあくまで穏やか。

「難しいこともたくさん書いてあるんだけど、最初の方には著者の高根先生がアメリカの大学に留学して社会科学と出逢ってものすごく衝撃を受けたみたいなエピソードトークもあって面白い。これは教科書っちゃ教科書で、もちろんそういう使われ方もしているんだけど、著者の立場や人となりみたいなものが見えてくるから、古い本なんだけどいろんな教授が使いたくなるのかもね」

身につけたもので戦うしかなかった僕のそばにいてくれた、1冊。

Akiさんのお話を伺っているうちに『創造の方法学』を読みたくなってきた庵主でしたが、難しい用語がバンバン出てくるんじゃないかと思わずにはいられません。

「確かに言葉遣いとか古くて読みづらいなとは思うんだけども……。僕自身この中身が自分に定着するまでは本当に何度も何度も読み返したから、スッとは読めないかな。読むだけじゃなく、ゼミとか授業とかでこれを教材にして理解を深めていったから。読んだだけじゃ理解できる人はあんまりいないんじゃないかと思う」

何度も何度も読み返し、ゼミの人たちと激論を交わすことで理解を深めていったAkiさんはこの本に普遍的なものを感じるといいます。

「社会科学だから、社会の変遷とともに普通は書籍もアップデートされていくものなんだけど、これはもうちょっと手前の方法論の話ってこともあるし、大学卒業してから結構経つけど、今でも普通に教材として使ってる人もいるかもね」

普遍的であるがゆえに、学問の参考書でありながら、それ以外の面でも役に立っていると思うとAkiさん。

「多くの点で僕の人生に役立っている。そういう本だと思ったからこの本を選んだ。普遍的な価値がある1冊だと思う。ハウツー本とかも自分の役に立っているけど、局面的というか一時的というか、それはそれでもちろん素晴らしいんだけど、撮っておきという意味では普遍的なものを選びたかった。時代や分野を選ばない名著だと思う、これは」

庵主冥利に尽きるお言葉、痛み入ります。

学生時代の色濃い日々がとても印象的ですが、卒業後Akiさんは『創造の方法学』とどのように過ごしてきたのでしょうか。

「うーん、あのね、読まなかったんだけどとりあえず自分の手元に置いておきたいなとは思ってた。東京の大学を卒業してから留学することになっていたんだけど、それまでに少し時間があったから実家に帰って、その後イギリスに引っ越す時にもこの本は連れて行った。留学先で学びたいこととも関係ないから、持っていってもしょうがないんだけど、とりあえず」

実際イギリスで『創造の方法学』を読んではいないと話すAkiさんですが、寮の棚に置いていたといいます。

「持ち込む荷物の重量制限がある中で、本なんて重いし邪魔なんだけど。だから相当選別を考えたんだけど、他の英語系の教材とか大事なものと一緒に持っていって。最近また引っ越したんだけど、こいつは手元に残ってる。そういう意味ではやっぱり大事なんだろうね。自分の基礎かもしれない」

僕は自分の中の軸が今になっても定まらないので、自分の基礎がある人に憧れると、素直にそう伝えました。

「僕も大学で数年かけて使い込んで、読むだけじゃなくてそれこそゼミ生と議論したり、そうやって身につけてきたものだから。普通の読書のあり方とは違うかもなあ。普通はわざわざ読んだ本の要約もしないよね。要約しようとするといやでも理解しないといけないから。著者になりきってゼミ生の質問に答えるようなトレーニングもしていたね笑」

楽しいだけではない、厳しくも充実した向き合い方をしてきた『創造の方法学』に寄せる信頼は相当なものがあったのでしょう。その後思いがけない事態に陥ったAkiさんを救うことになったのもこの1冊でした。

イギリスに渡りインターナショナルジャーナリズムという修士課程に飛び込んだAkiさん。自らの知的欲求を満たし、とても充実した日々を送っていたことと思います。

そんな留学も最後の修士論文のプロジェクトを残すのみとなったタイミングで、論文の研究のために一時帰国をしたのだそう。なんという巡り合わせか、Akiさんは体調を崩してしまい、論文も書けずじまいになってしまいました。

「体調崩したぐらいならいいんだけど、完全に鬱状態になってしまって。家の外に一歩も出られない状態が2年ぐらい続いたんだよね。だから世に出て働くキャリアなんて全然築けなくて。新卒なにそれおいしいの状態」

学ぶこと、世界を知ることの意欲に溢れたAkiさんにとって、どれだけ辛い日々だったことでしょう。僕には想像もできません。それでも今こうして再び立ち上がったAkiさん。その力の源は。

「そんなこんなで僕はどこにも入社した経験がなくて、ちょっとずつフリーランスでやってきました。新入社員を経験していないから、僕が誰かから直接ものを教わるっていうのは大学院で終わっちゃってる。あとはもう自分で試行錯誤するしかない。僕の持ってる武器なんて大学で教わったものくらいしかなかった。それで勝負するしかないから、それだけを頼りに闘ってきた。だから…これは僕の武器の1冊でもあるんだと思う」

この言葉を聞いた時、僕はAkiさんが『創造の方法学』と出逢うことができて本当に良かったと、自分のことのように嬉しくなりました。本は人を救うし、そうして支えられて闘ってきたAkiさんが今素晴らしい情報を発信していることが、とても嬉しいのです。

「固定観念を疑う癖がついたこと、新しいものを作ることの意義を重んじるようになったこと、クリエイティブなものを見るとすげえって思うようになったし、自分自身そうありたいと思うようになった。ブログ記事とかも毒にも薬にもならないような記事なんか書きたくないよって思うようになってるのも、この本の影響を受けているんだろうなって。どうせ書くんだったら、ね」

覗かせた自負と、辿ってきた道のりを思うその表情に魅了されっぱなし、タフな男によく似合う1冊でした。

撮影を終えて

同じ県に住むもの同士ということで、よくしてもらっているAkiさんのお話をようやく伺うことができました。僕がカメラを始めた頃から色々と優しく教えてくれたAkiさんの大切な本との向き合い方、苦しかった過去についても包み隠さずお話してくれてとても嬉しかったです。『創造の方法学』早速僕も買ったので、読み込んで質問投げかけてみたいと思いますので、首を洗って待っていてくださいな。

というわけで第42回目のホントレートはここまで。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。今後も素敵な人や本との出会いを期待して、バイバイ!

あなたと大好きな1冊の姿を写真に残しませんか?

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