だらり庵の本棚

【#だらり庵の本棚 3】予鈴が鳴る鳴る、ぐーぐーと 菊池亜希子『おなかのおと』

僕はよく食べる。それはもうモリモリと。元気ハツラツな日も、そうでない日も変わりなく。基本はお茶碗いっぱいに2杯。「今日は調子がいいねえ」という日には3杯目にも手を伸ばす。「腹八分」という言葉は母のお腹に置いてきたんだと思う。ごはんをパクパク頬張っている時ほど幸せな時間はないとさえ思っている節がある。

僕はまた、自分じゃない人が楽しそうにごはんを食べているのを見るのも好きだ。もぐもぐワシワシ食べる姿を眺めているだけで、頬が緩むし、お腹が膨らむ気さえしてくる。

そんな僕が食べものにまつわる本が大好きなのは、もはや言うまでもないことと思う。一度は食べてみたいとよだれがだらだらこぼれるような美食がいっぱいのグルメ本、思い出の味というテーマにほろりとさせられるエッセイ、調理の過程が美しく写真に収められたレシピ本。どれも大好きだ。

特にエッセイは大好物なのだけれど、それを憧れの菊池亜希子さんが書いたとあっちゃあ、こうしちゃいられねえ、とお買い上げ。ページに喰らい付くように読みふける。

時間を忘れて読んでしまう。それこそお腹が空いていることを忘れてしまうくらいに。たくさんの料理名が登場する優しい手書きの目次は、なんだかお品書きのようで読む前から心が浮き立ってくる。「むぐむぐトースト」「ほこほこ肉まん」「とぅるとぅる雲呑」なんかの、擬音と食べものの組み合わせなんて、今日はこれを食べなきゃ気が済まないじゃないか!という気持ちになる。

各エピソードは3ページくらいのボリュームで、ペロリと読めてしまうから、鞄に忍ばせておけばいつでもおやつ代わりに楽しむことができる。

ごはんを食べることはご機嫌な事ばかりじゃないんだぞ、ということも書かれているし、胸がきゅっとなるような内容のものもある。でもそれは食べることが生きることの最も近くにあるものの1つだから当たり前なのかもしれない。描かれているのは特別な事ばかりじゃなくて、僕たちが日々巡り合っているもの。

泣いて、はしゃいで、怒って、笑って、どんな時でも最後には「ぐー」とくる。お腹が鳴るということは生きていることなんだなあ、とぼんやり思える1冊(しっかりじゃないところがミソ!)

“お腹の音は、幸せなごちそう時間の予鈴”なんて素敵な言葉