たべものの味にはいつも、思い出という薬味がついている……。
はじめに
口に入れた瞬間に目を覚ます、胃袋の中の思い出たちを23品集めたエッセイ集。お品書きには誰にも馴染みのあるオムライスやカレー、カステラからくさやなんて変わり種も。
食べものについて書かれている文章を読むと、刺激を受けたお腹がぐうと鳴る。よくあることだ。でも森下さんの文章はそれだけじゃない。
誰もが持ち合わせているはずなのに、普段全く意識しない食べものの思い出をユーモアに満ちた視点で丁寧にすくい上げ、そこに自筆の温もりあるイラストが慎ましく、そっと添えられている。
記憶が喜ぶ、目が喜ぶ、然るのち胃袋が喜ぶ。
少女であった時代のメロンパンとの邂逅、買ってもらえずに想像で味わうばかりの日々、初めて口にした時に感じた幻滅、それでも買わずにいられない不思議な感じ。
今でも私は、あのもこもこしたレモン色を見ると、胸のあたりに、お日様が差し込むような幸せを感じる。食べたこともないのに、ありったけの想像力で味の幻覚を見た子供の頃の憧れを思い出すことができる……。
「黄色い初恋」
「夜更けのどん兵衛」「カレーパンの余白」「カステラに溺れて」
よく見知った食べものたちに、気になるタイトルが与えられているのも親しみが持てる要因の一つだろうか。
生きること、食べることとはこんなにいとしいことに溢れていたのか、と自分の食を振り返りたくなる1冊。