ホントレート

【#ホントレート 1】失われた時間を探しに。ライターロペス&綾音の撮っておきの1冊

皆さん、こんにちは。今日もだらだらしてますか?

どうも、だらり庵 庵主のクロギタロウです。

「人生に寄り添う1冊を楽しむ人の姿を写真に残したい」

そんな想いで生まれ変わった撮っておきの1冊「本とあなたのポートレート」、略して「ホントレート」

記念すべき第1回目は、なんといきなり2人同時の撮影となりました。

今回本を紹介してくれたのは、播磨のローカルメディアpaletteの編集長ロペス君と、パートナーの綾音さん。選ぶ本まで被るという仲の良さを見せつけてきた2人ですが、同じ1冊でも楽しみ方には大きな違いが。イレギュラーな形での幕開けとなりましたが、早速2人の「撮っておきの1冊」について教えてもらうことにしましょう。

お話を伺った人

中野広夢(ロペス)さん

1992年、奈良県生まれ。少年の心を忘れない26才児。paletteの編集長兼ライター。通称「ロペス」。畿央大学教育学部を卒業後、東京の人材派遣会社に就職。その後小学校教諭、塾講師、認定子ども園保育補助を経て現職。人、モノ、場所の魅力を引き出し、記事として発信するため日々奮闘中。目下の悩みは「終わらない成長期」。ダイエット方法募集中。

綾音さん

姫路市のコワーキングスペースmoccoのスタッフとして活躍する読書好き。共有本棚「moccoライブラリー」の本を紹介する記事執筆を担当。黒髪&メガネがトレードマーク。プログラミング技術の習得に邁進中。

仲良し2人による同じ本を選ぶ攻撃

いつもお世話になっている2人の「撮っておきの1冊」は以前から気になっていました。

読書が大好きなカップルで、2人とは最近読んだ本なんかについても、よく情報を交換しています。ホントレートを撮らせて欲しいと話を持ちかけると、2人とも快く引き受けてくれました。ありがたい。

2人別々に撮影の依頼をしたのですが、やり取りの中でそれぞれが選んだ本が同じ本だと分かった時の僕の表情、皆さんにお見せしたかったです。LINEの返信を見つめて「マジかよ……」と呟くことしかできなかった、無力な僕の表情を……。いささかイレギュラーな形ではありましたが、2人同時に撮影することに。

初回から思いがけない面白さを提供してくれた2人が選んだのは、ミヒャエルエンデの『モモ』でした。

『モモ』について

ドイツの作家ミヒャエル・エンデ著。1973年刊。1974年にはドイツ児童文学賞を受賞。貧しいながらも、いつも周りの人を笑顔にする不思議な少女モモが、「時間貯蓄銀行」と称する灰色の男たちに奪われた皆の時間を取り戻すために奮闘するお話。

日本では根強い人気を誇り、本国ドイツに次いで発行部数が多いそうです。時間に余裕がない日本で多く読まれているというのも面白いですね。

綾音さんと『モモ』

『モモ』は小学校の中~高学年を対象とした児童文学。

子供向けながら、時間という難しいテーマを扱っているので、小学生の頃に読んだという人はあまりいないように思いますが、2人がいつ頃この本と出会ったのかというと。

図書室の本棚を眺めるのが大好きだったという綾音さんは、小学校4・5年生頃、学校の図書室で簡潔な2文字のタイトルに惹かれて一気読みしたそう。

一読して『モモ』の世界に心を掴まれ、以降何度も何度も繰り返し借りては読みふけったそうです。

図書室の『モモ』の図書カードに綾音さんの名前ばかりがずらりと並んでいたということからも、よほど大好きだったことが窺えます。

そんな綾音さんですが、小学校を卒業し、学校の図書室に入れなくなってからは、しばらくの間『モモ』と離れ離れに。

何度も読み返した大事な1冊を手元に置いておきたいという気持ちはずっとあったそうですが、本体価格1,700円のハードカバー版は、当時のお小遣いにはなかなかの負担。

彼女の手元に思い出の『モモ』が帰ってきたのは、19歳のころ。

純粋に面白いファンタジーとして『モモ』を読んでいた少女は、いつしか時間に追われる1人の女性になっていました。

再会後の彼女の心には「今の自分、余裕ないな。時間盗まれてるな……」という思いが広がったといいます。そんな大人になった彼女と『モモ』のお話はまた後ほど。

ロペス君と『モモ』

翻ってロペス君。

彼は綾音さんとは対象的に社会人2年目の時に『モモ』と出会ったそうです。

バリバリの忙しさに首までどっぷり浸かっていた彼は、長い間読み継がれてきた名作くらいは「教養として読んでおかねばならんだろう」という義務感から『モモ』を手にとりました。

自ら教養主義者を自負するロペス君ですが、「これはそんな範疇に納まるような本じゃない!」と衝撃を受けたそうです。むしろそういうものに対するアンチテーゼではないかと感じたとも。

「時間を節約するという行為が結局時間をなくすことに繋がっている」ことに気付かされたロペス君。

「時間があって豊かになる」という考え方には変わりはなくても、そこに至るための道筋が時短術ではないと、当時流行していた「時短術」や「時間管理のライフハック」モノを一切読まなくなったといいます。

おかげで現在めちゃくちゃなスケジューリングをする人間になってしまったと笑い飛ばす彼は、実にいい笑顔をしていました。

そんな人生の1冊となった『モモ』をこれまでに何回ぐらい読んだのか尋ねてみると、1回しか読んでいないという思いがけない答え。

基本的に本を読み返さないというロペス君。どっぷりその世界に入り込んで読んだ本の内容は忘れないそうです。

入り込みすぎて、1度しか読んでいないのに『モモ』についてのビブリオバトルで優勝をかっさらったロペス君は「次に読み返すのは、自分が本当にモモになれた時だと思う」と語ってくれました。

「ゆっくり座って、一度読んで内容がわかっている本を読み返すことができるような余裕があることこそが、豊かさそのもの」とも。とても素敵な考えだと思います。基本的にあまりオススメの本を人に教えないというロペス君ですが、『モモ』だけは違うそうです。

どういう時にこの本を読むか

話を聞いている最中にロペス君がこんなことを言っていました。

「時間の大切さを分かっていない子どもが読んでも、深くは理解できない。(『モモ』は)大切な時間を失ってからこそ読む本」だと。

そういえば、子どもの頃に『モモ』と出会い、大人になる過程で時間の余裕を失っていった女性を、僕たちは知っていますね。大人になってからの綾音さんと『モモ』の付き合い方は、どのように変化したのでしょうか。

ロペス君の言うように、綾音さんも子どもの頃には時間の大切さに思いを巡らせながら読んではいなかったそう。

しかし、幼い頃に何度も親しんでいただけあって、『モモ』は深く彼女の内面に根付いていました。意外なことに、手元に『モモ』を置いてからは昔のように読み返してはいないそうです。

それでも生活する中で視線が本棚に向いた時に、そこにあのタイトルがあるというだけで「あ、今マズイかもな。少し落ち着かないとな」と少し冷静な気持ちにさせてくれる存在になったのだといいます。

人生に寄り添う1冊との関係性のあり方の1つとして、羨ましく思います。

『モモ』と2

最後に「もしこの本と出会っていなかったら?」という質問を2人に投げかけてみました。

「もっとピリピリ、イライラしていたと思います。なんで自分にはこんなに時間がないのか、って」と語る綾音さん。

実は、時間泥棒である「時間貯蓄銀行」の灰色の男たちのことも嫌いではないのだそうです。

「熱意を持って仕事をしているのに、誰からも求められない。報われない熱心さを持つ彼らのことを、なぜか嫌いにはなれない」という綾音さんの背後には、モモの姿が見え隠れしているような気がしました。

「死んでるんじゃないだろうか」とこぼしたロペス君の言葉には少なからず驚かされました。

自他共に認める真面目な性格のロペス君は、色々と追い詰められてしまうことがあったそう。人は皆トランプのように手持ちのカードを持っていて、全ての人に「ジョーカー=最強のリセットカード」が与えられていると考えるロペス君。ジョーカーを切って、全てを投げ捨てて楽になってしまいたいという誘惑に「そうじゃないだろう」と自分を引き戻してくれる手札の1つが『モモ』だったといいます。

物語の中でたくさんの人を救うモモですが、現実世界でも人を救うことがあるなんて、つくづく不思議な女の子です。

時間と無関係に生きることのできない僕たちは、いつだって深いところで時間について考えずにはいられません。だからこそ時間という人類に共通のテーマを持つ『モモ』は、多くの国で時代を超えて多くの人たちに読み継がれてきたのでしょう。

『モモ』が生まれてもうすぐ50年が経とうとしていますが、明日へ向かうことに一生懸命な僕たちが、あまりにも急ぎすぎて大事なものを見失いそうになるたびに、ひょっこり小さな女の子が顔を覗かせるに違いありません。そしてその都度、僕たちはハッとするのです。

撮影を終えて

今回この企画をスタートするにあたって、思いがけず2人同時に話を聞くことになった時には「どうしよう……」と途方に暮れましたが、今となってはこれで良かったんじゃないかと思います。『モモ』に書かれている内容は全て同じです。それなのに、2人に話を聞いただけでも、出会いのタイミング、楽しみ方、何を感じたのかが全然違うということを目の当たりにすることができました。

今後、『モモ』が撮っておきの1冊だという人のお話を聞くことがあっても、その時にはまた違うその人だけの『モモ』を見せてもらえるのではないかと思います。

というわけで第1回目のホントレートはここまで。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。今後も素敵な人や本との出会いを期待して、バイバイ!

あなたと大好きな1冊の姿を写真に残しませんか?

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