皆さん、こんにちは。今日もだらだらしてますか?
どうも、だらり庵 庵主のクロギタロウです。
「人生に寄り添う1冊を楽しむ人の様子を写真に残したい」
そんな想いと共にスタートした撮っておきの1冊「本とあなたのポートレート」、略して「ホントレート」
12回目となる今回は、フィルムカメラと家族をこよなく愛する映像ディレクターの男性が教えてくれた1冊です。
本以外のところでも楽しいお話を伺うことができた今回の取材。そんな魅力的な彼を作り上げた、たくさんの経験の扉を開いたのが、今回ご紹介いただいた本でした。いったいどんな「撮っておきの1冊」だったのか、早速教えてもらいましょう!
お話を伺った人
ワタナベさん
都内在住33歳の映像ディレクター。noteにて愛するフィルムカメラで撮った写真の投稿、フィルムのあれこれについての執筆を行う。映像ディレクターならではの視点から生み出される記事はフィルムユーザー以外の共感も呼ぶクオリティの高さ。
甘酸っぱい記憶の扉を開けるスイッチ
「久しぶりに読み返してみたんですが、やっぱりいいなあという感じですね。随分時間も経って、今の僕には卒業アルバムのような、記憶の扉を開けるスイッチっぽいところがある本になりましたね」
そう語るワタナベさんが持ってきてくれたのは、峯田和伸『恋と退屈』
峯田和伸といえば、パンクバンド銀杏BOYZのギターボーカルを務めるシンガーソングライターです。
最近ではNHK朝の連続テレビ小説のキャストに抜擢されるなど、俳優としての活躍もめざましい方です。
そんな峯田さんがライブドアブログで書いていた記事をまとめて本にしたのが『恋と退屈』
スマートフォンやタブレットもない、15年以上も前に書かれていたブログですから、当時ワタナベさんはガラケーのボタンをぽちぽち押しながら毎晩記事を読んでいたといいます。
ブログには、その日のライブの感想や、レコーディングの様子であったり、アテネオリンピック(2004年)なんかの当時のリアルな話題が書かれていたのだそうです。
2004年、ワタナベさんは18歳の青春真っ只中。
泥臭くパンクで、汗の匂いの漂うエキセントリックさをほとばしらせていた、峯田和伸に熱狂していたといいます。
全ての本の中でただ1冊。何ものにも代えがたい。
「僕は究極的には持っている本が全て電子化されても困らないタイプの人間です。本は読みますが、部屋のスペースの問題なんかもあって、だいぶ電子書籍として買い直しました」
持ち歩くのも電子書籍の方が重さもなくて、簡便ですからと語るワタナベさん。
それでもこの『恋と退屈』だけは一生手放すことはないだろうといいます。
なぜでしょう。
不思議に思っていると、ワタナベさんがおもむろに表紙をめくりました。
そこには
あ、峯田さんの直筆のサインが!
「単純にね、売ったり捨てたりできないですよね、これは」
そう言って少し恥ずかしげに、少年の顔をのぞかせたワタナベさん。
今読み返してみて、共感できる部分もできない部分もあるといいます。
そんなことしたら迷惑だろ〜、と思ったりするようになっていた大人のワタナベさん。
20歳の頃、8歳差で28歳の峯田さんに憧れていたワタナベさんは、当時30歳を過ぎて守りに入った大人をカッコ悪いと思っていたそうなんですが笑
もちろん今は違うそうで。
峯田さんのことは今でもカッコいいと思っているけれど、歳を重ねてみて分かったのだそうです。
峯田さんが本の中で書いたり、他のロック界隈の人と話しているカルチャーのことを本当に良いと思っていたのか、それとも大衆的なJポップを聴いている人と自分は違うんだという振る舞いがしたかったのか。
下北沢のロックバーに仲間と通って、ウイスキーを舐めたりしていた大学時代の自分が恥ずかしいねえ、と。
全然美味しいとも思ってなかったのに、かわいいじゃないと穏やかな笑みを浮かべるワタナベさんにとって、峯田和伸とは、『恋と退屈』とは一体何だったのでしょうか。
本質なんか見ていなかった。それでもただ、楽しかった。
世界には、雑誌やテレビが大々的に取り上げているものだけがあるわけじゃないんだと気付かせてくれたのが、ゴイステ・銀杏BOYZであり、峯田和伸であり、『恋と退屈』だったのだといいます。
深夜ラジオの世界を知ることができたのも、学生時代に半年に一度は渡米するようになったきっかけを作ってくれたのも、全てそう。
随分大人になってしまったけれど、今でもたまに夜1人で起きている時に、お酒を飲みながら峯田さんの歌声に耳を傾けるのだというワタナベさん。
文化祭で女子を加えてHYを演奏するようなバンドをアホだなと思っていたあの頃の少年はもういませんが、峯田和伸が広げてくれた世界は今のワタナベさんにも確かに繋がっているようで。
人と違うことをするのが好きだという点では、フィルムカメラをやっているのは若かったあの頃と変わりはないのかもしれないといいます。
昔はそのカルチャーを本質的に好きなのかどうなのかもわからずに熱に浮かされていたようなところもあったけれど、今はフィルムカメラが本当に好きなんだと実感しています、そう結んでくれました。
15年という年月は、人を見る影もないほどに変えることもありますが、その間には確かに読んできた本や遊びが染み付いているはずなんだと思いました。
撮影を終えて
noteの投稿や、穏やかな現在の様子からは、パンクバンドに夢中になっていた頃の様子はまるで窺えず、ワタナベさんが『恋と退屈』を見せてくれた時は正直驚きました。
パンクとは遠いところに来るまでにワタナベさんが経験してきたことをお話してくださる言葉の端々に、本当の大人の余裕のようなものを感じました。
昔の自分なんて恥ずかしくて見てられないですよ、そんなことを言いながらも、色々面白いお話を聞かせてくださり、ありがとうございました。
今度、別れ際にLeicaで撮ってくださった写真、見せてくださいね。
というわけで第12回目のホントレートはここまで。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。今後も素敵な人や本との出会いを期待して、バイバイ!
あなたと大好きな1冊の姿を写真に残しませんか?
ホントレートのご依頼は上記のページをご覧ください。