ホントレート

【#ホントレート 17】僕たちを動かすのはいつだって“ときめき”だ。株式会社drip CEO堀口英剛の撮っておきの1冊

皆さん、こんにちは。今日もだらだらしてますか?

どうも、だらり庵 庵主のクロギタロウです。

「人生に寄り添う1冊を楽しむ人の様子を写真に残したい」

そんな想いと共にスタートした撮っておきの1冊「本とあなたのポートレート」、略して「ホントレート」

17回目となる今回は、ときめく“モノ”を通じてたくさんの若者をご機嫌にしているブログメディアの運営者が教えてくれた1冊です。

おそらくこれまでお話を伺った方の中で、最も所有する紙の本の数が少ないであろう方の“核”になっているという本。いったいどんな「撮っておきの1冊」だったのでしょうか。早速教えてもらいましょう。

お話を伺った人

堀口英剛さん

1990年生まれ。東京都在住。“モノとヒトとの文脈を紡ぎ出す”株式会社drip代表取締役社長。個人ブログ「monograph」ではガジェットを中心に、気になったモノを幅広く紹介。自分をときめかせるモノ選びのエキスパート「モノマリスト」として、2018年には自身のモノの選び方や考え方を綴ったエッセイ『人生を変えるモノ選びのルール』を上梓。ファミチキが好き。

現monograph「始まりの1冊」

「1ジャンル1アイテム」というモノ選びの基準を設け、とびっきりのときめくモノだけを手元に置くことにしている堀口さんは、多くのモノが身の周りに溢れている状態を是としません。

そんな彼ですから、寝る前に読む漫画は基本的に電子書籍、おっ!と思うところがあった紙の本でも、メモをとった後にはメルカリなどで売っているといいます。そんな暮らしでは本が増えることがありませんから、必然的に部屋には本棚がありません。ですので、堀口さんの手元には全部で4冊ほどしか紙の本はないのだそうです。すごい。

それほどまでに選別された本ということなので、今回は特別にその中から3冊についてお話をしていただくというイレギュラー回になりました。

「基本的にはこの1冊ではあるんですけどね」

そう語る堀口さんの手元には、松浦弥太郎『今日もていねいに。』

社会に出て、学生の頃のように記事を更新するのが難しくなり、ブログの方向性を変えようとしていたという堀口さんが、この本と出会ったのは5年ほど前。旅行先のタイでのことでした。

何もすることがなく、本でも読もうとふらりと立ち寄ったカオサン通りの古本屋さん。松浦弥太郎のことを知らなかったという当時、『今日もていねいに。』という字面に惹かれてこの本を手に取ったことで、彼と彼のブログが大きく動き出しました。

それまでの、読者の興味に賞味期限のある流行りのゲームの攻略法や漫画の考察ではなく、いつ読んでも大丈夫な記事を書こうと考え、暮らしに関わるモノを中心に取り上げるようになったきっかけが『今日もていねいに。』だったのだそう。

エピソードを交えつつ、考え方をモノに落とし込んでいく松浦弥太郎スタイルには、大きく影響を受けているという堀口さん。この本と出会っていなかったら、どのみちブログをやっていただろうけど、全然違うことを書いていたと思うなあ、と感慨深げな様子でした。

少々大げさな言い方をすれば現在の「monograph」の「始まりの1冊」とも言える本書。原点を忘れないようにという思いからか、はたまたうっかり忘れているだけなのか、タイの古本屋さんで買った時の値札が着いたままなのが、とても印象的でした。

エッセイはスポーツである。

「この本は全国の学校の図書室に置くべきですよ」と語る堀口さん。どこを開いて読んでもハズレがないのだそう。

その中でも特に大好きなのが「自分プロジェクト」という考え方だといいます。

自分プロジェクトとは、誰かに「やれ」と言われたことではありません。

自分でしかつめらしく「やらねばならぬ」と、決めたことでもありません。仕事でもいいし、毎日の暮らしのなかの、些細なことでもいい。「これができたら、すてきだろうな、面白いだろうな、きっと新しい発見があるだろうな」そういった小さなプロジェクトをいくつもこしらえ、あれこれやり方を工夫し、夢中になって挑戦し、順番にクリアしていくことです。

誰のためでもなく、自分のために自分がワクワクできることをコツコツ楽しみながら続けるのって良いよね、と思えるヒントをもらえたという堀口さん。続けることは難しいことだと前置きしつつ、習慣になってしまえば楽しくてしょうがない、やらないと逆に落ち着かなくなりますからねとも。

堀口さんの習慣の1つに、夜寝る前に漫画を1冊読むというものがあるそうなのですが、同時に本も1ページ読むようにしているといいます。その時にちょうどいいのが堀口さんの数少ない蔵書『今日もていねいに。』と森博嗣『つぶさにミルフィーユ』、それからジェーン・スー『今夜もカネで解決だ』

この3冊に共通しているのは、どれもエッセイ集だということ。どうやら堀口さんは限られたページ数で起承転結を華麗にまとめるタイプのエッセイがお好みのようです。

「エッセイはスポーツだと思っています。わずかなページ数という制約の中で自分の最大のパフォーマンスを出力するところが、本当にすごい」

特に、過不足なく見開き2ページぴったりで1つのエッセイを書き上げる森博嗣の『つぶさにミルフィーユ』については「まるでエクストリームスポーツ(スカイダイビングやボルダリング、スノーボードのような危険をものともせず行う離れ業的スポーツ)のよう」と評するほど。

自分の文章の核を形作る3冊

一方で堀口さんの運営しているブログという形態は制限がないため、書こうと思えばいくらでも言葉を弄して書き続けることができてしまうのだそうで、 エッセイほどの凝縮感を持たせるのはなかなか難しいのだといいます。そしてエッセイよりもさらに言いたいことが凝縮して表現されているのが、俳句。究極的には俳句のように短い言葉でモノの本質や言いたいことを表現できるのが理想なんだとか。なんだかものすごいところを目指されています。

俳句といえば、ついつい声に出して読みたくなりますが、堀口さんは本を読んでいる最中にいいなあと思う箇所があった時、iPhoneの音声入力でメモしているのだとか。

「単純に文字を打ち込むよりも手間がかからないというのもあるんですが、目から取り込んで声に出した文章ってすごく覚えているんですよね」

さらに、良い文章は声に出した時に通りが良いとも。

「全然本と関係ないんですけど、ラップってあるじゃないですか。 あれはすごく勉強になるんですよね。言い回しもそうだけれど韻という部分で」

古来から人間が耳にして心地よさ、美しさを感じてきた「韻」

それをいかに自分の書く文章に落とし込むかを常に考えているのだといいます。

「上手い人の文章は、テンポやリズム、そして韻といったところがしっかりしていると感じています。要点を押さえているとかそういうんじゃない。その人の思考や書き方の型とでもいうものが特に出やすいというところも、僕がエッセイを好む理由なのかもしれません」

松浦弥太郎でいえば若かりしニューヨークの日々を枕に持ってくる書き方、森博嗣であれば結論めいたことを文章のはじめに持ってくるなど、持ってきた本の型についても語ってくれました。

文章の型、そこに言及できるということは、それだけ読み込んでいるということ。枕元においてほとんど毎晩のように少しずつ目を通し、自らの血肉としているのが窺える言葉のチョイスだと感じました。

それぞれに違うテイストの3冊を核とし、記事にするコンテンツの性質によって意識する文章を変えているという堀口さん。

『今日もていねいに。』をベースに置きつつ、カッチリしたモノの紹介がしたい時には『つぶさにミルフィーユ』、各方面で在庫を払底させたジェットウォッシャードルツのようにカジュアルに紹介したいモノの時には『今夜もカネで解決だ』をそれぞれ意識するのだといいます。

そんな器用なことができるのも、目を通し、体に取り込み、言葉として発するという日々の繰り返しの賜物なのかもしれません。

「松浦さんのこの本は、毎晩朗読したっていいぐらいです」という言葉をインタビューの始めの方で聞いた時には、正直そんなまさかと半分くらい思いました。ですが30分後にはこの人は本気で言っているんだと認識を改めている自分がいました。今この人が手にしている本は、彼の日々になくてはならない1冊なのだと。

堀口さんの著書『人生を変えるモノ選びのルール』の中にこんなことが書いてあります。

あまりくどくなりすぎても嫌味ですが、自分が持っているモノの「理由」と「良いところ」くらいはサラッと口から出てくるようにしたいです。

自分はどうしてこれを持っているのか、どうしてこれを選んだのかを語れるのであれば、それはきっとあなたの「ときめくモノ」なのだろうと思います。もしその理由を説明できないのであれば、それはあなたがなんとなく持っているだけのモノ。

どうでしょう。堀口さんは「撮っておきの1冊」について語れていたでしょうか。

 撮影を終えて

正直に申し上げて、僕は堀口さんが語ってくれる本が今回の3冊だろうという予想はしていました。というのも、ご自身のブログでこれらの本について「語る」記事を書いていらっしゃるのです。堀口さんが取り出した本を見て「やはり!」と思ったのと同時に「まさか全部だとは…!」とも笑

なんで記事に書いていることまで知ってるんだと思われるかもしれないでしょうが、単純に僕が「monograph」のファンだからです。毎日更新を楽しみにしている1人の読者なのです。

そんな僕が堀口さんに直接お話を伺える日が来るなんて。随分遠くまで来た感がありますね。

次はどんな“ときめくモノ”を教えてくれるのか、これからも楽しみにしてますね〜!

※堀口さんが3冊について書かれた記事は以下のリンクからどうぞ。

というわけで第17回目のホントレートはここまで。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。今後も素敵な人や本との出会いを期待して、バイバイ!

ホントレートについて ホントレートは「本とあなたのポートレート」を省略したもの。庵主であるクロギタロウの造語です。本をたくさん読む人も、そうでない人にも人生...

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