ホントレート

【#ホントレート 21】それでも生きていく。人は強いから。ブログ「ぽけっとすぱいす」運営高澤琴の撮っておきの1冊

皆さん、こんにちは。今日もだらだらしてますか?

どうも、だらり庵 庵主のクロギタロウです。

「人生に寄り添う1冊を楽しむ人の様子を写真に残したい」

そんな想いと共にスタートした撮っておきの1冊「本とあなたのポートレート」、略して「ホントレート」

21回目となる今回は、いつもの日常に少しのスパイスを届けてくれる素敵なブロガーさんが教えてくれた1冊です。

自分のあまり好きじゃないところもナシではないぞ、と思わせてくれるという作品だそう。これまた気になりますね、いったいどんな「撮っておきの1冊」だったのでしょうか、早速教えてもらいましょう!

お話を伺った人

高澤琴さん

東京都在住。会社員をしながら旅や写真、美容に関する記事を発信するブログ「ぽけっとすぱいす」を運営中。とりわけ旅行系の記事は、鎌倉ぐらいなら1人でもずんずん面白そうなところに進んでゆく姿が勇ましく、カッコいい。令和になったその日に籍を入れた、新婚さん。

自分には真似できない強さに惹かれて

電車の中で読んでいて、あまり目立ちたくないという琴さん。カバーを外したその1冊は角田光代『八日目の蝉』でした。角田さんといえば、登場人物の心境描写が巧みで、時に胸がえぐられるほどの迫力ある筆致が魅力的な作家さん。人の愛情や心の動きに興味があり、人がどういう風に考えて行動に移しているのかが気になるタイプだという琴さんが、角田作品に心惹かれたのも不思議ではないのかもしれません。

「母性」が主要なテーマとなっている『八日目の蝉』は、不倫相手の子どもを誘拐した女性(希和子)の逃避行を描いた作品。

「あらすじだけ聞くと、結構ヤバいですよね(苦笑)」

2011年には映画化もされている作品なので、タイトルぐらいは知っていましたが、確かにちょっと聞いただけだと読むのが辛そうだな、と思いました。それでも、と琴さん。

「それでもテーマになっている母性とか愛情の深さがすごい話なんです。誘拐してしまうのは自分の子どもじゃない。なんなら憎いはずの、不倫相手の奥さんの子をわざわざ自分の財産をなげうって育てるんです。それも本当の我が子のように大切にする姿が、すごい。自分にはとてもできないです」

愛情の正しい形は一つではないという言説はよく耳にしますが、それでもここまでのものはそうそうあるものじゃないと思います。だからこそ響く人には、深く深く響くのかもしれません。本屋さんでパッと見て表紙が良かったので手に取ったと語る琴さんですが、出会うべくして出会った1冊だったのではないでしょうか。

ところで子どもを誘拐した希和子の愛情は一方通行だったのでしょうか。子ども(希和子は薫と名付けます。本名は恵理菜)側の心情が描かれた数少ない場面にその答えがあるのだそうです。

あの人からは石鹸と玉子焼きの混じった匂いがしたという回想に琴さんは、薫が希和子の中に母親を感じていたんだ!とグッときたといいます。

「母親の思い出を彷彿させる、他人のことを振り返っている感じではない雰囲気が伝わってきて、良かったね…と思うんです」

直接的に「私はあの人を母親だと思っていた」という風に書かれるよりも、困惑しつつも一筋縄ではいかないむず痒いような心情が表現されているような気がします。

どう思っても自分は自分、ナシではない。

逃走を描く物語ですから仕方のないことなのですが、希和子もやはり警察から逃れ続けることはできません。実に4年もの間逃亡を共にしてきた薫と引き離され、逮捕されてしまいます。逮捕の瞬間にも、本当の母親のような言動をする希和子。普通であればなんとか逮捕を免れようと、自分は悪くないという言動をしてもおかしくない場面で、薫の身を案ずる発言しか出てこないところにも心揺さぶられると、琴さん。

それほどまでに大切にしていた薫と別れ別れになり、全てを失った希和子。その後の彼女には生きる希望も何も残されていません。それでも人間は生きていかなければならない、そして生きていくだけの強さを感じさせるシーンがあるといいます。

出所後、みすぼらしい食堂で出されたラーメン1杯をまだ美味しいと思う希和子は、麺の切れ端まで飲み込もうとしている自分の姿に打ちのめされます。

「全てを失ってもなお生きていかなくちゃいけない。何もないけど、ラーメンは美味しい。そんな気持ちになることが時々あります。あーこのオムライス美味いなあ、ってそれだけで元気が出たりする。人それぞれ抱えてるものもあると思う。そんな時でも人は食べ物だけでも気持ちを紛らわせられるんだな。強いんだなって。あ、本とは関係ないですけど、落ち込んでる時にけーすけ(夫)が作ってくれたご飯、死ぬほど美味しいんですよね笑」

最後の一言はただの新婚さんのノロケ爆弾でしたが(笑)こう思うことは確かにありますよね。あるあるだとは思うのですが、こういうことをサラリと書けてしまうのが、角田さんの上手さですね。

色々と散らかってしまった心を整理したいときに『八日目の蝉』を読むと、琴さんは言います。そのシチュエーションもしっかり考えてあるそうで、夏の午後3時くらいにコーヒーを飲みながら、今までの自分を振り返るような時に合ってる本なのだそう。

そうして振り返ってみた自分は、琴さん自身の分析によると角田さんや希和子にマッチしているのではないかといいます。

「愛情に走るとか、恋愛が好きだったり、子どもが好きだったり、落ち込みやすかったり。自分の自信のなさをシクシク刺激するような場面も作中によく出てきます。自信がないところは自分でもあまり好きじゃないですし、ずっと直したいと思っていて、それが出来ない自分にいつも腹立たしさを感じて、あーもうやだなあ自分!と思うことばかり笑 でもこの本を読んでいると、自分と同じような人もいて、それはそれでナシではないのかなと思ったり。認められるというか、そんな自分に対して、少しだけ優しくなれるんです」

自分のことなんて自分でもよく分からないものですから、しっかり生きようと思うかぎり人は迷うものです。そんな状態にある時にそっと寄り添ってくれる「母性」とでもいう温かさが『八日目の蝉』からは滲み出ているのではないかなと、琴さんのお話を伺っていて、そんなことを思いました。

もうすぐ蝉の季節ですね。

撮影を終えて

ツルツルと『八日目の蝉」について話してくれた琴さん。お話を聞いているだけでまるで読んだかのような気持ちになるほど、たくさん語ってくれたことからも、この本が琴さんに沁みているんだろうな、としみじみ。

希和子たちが束の間の幸福を手にする小豆島での暮らしに憧れているそうなので、けーすけには頑張ってもらわないとですね。

というわけで第21回目のホントレートはここまで。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。今後も素敵な人や本との出会いを期待して、バイバイ!

ホントレートについて ホントレートは「本とあなたのポートレート」を省略したもの。庵主であるクロギタロウの造語です。本をたくさん読む人も、そうでない人にも人生...

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