皆さん、こんにちは。今日もだらだらしてますか?
「人生に寄り添う1冊を楽しむ人の様子を写真に残したい」
そんな想いと共にスタートした撮っておきの1冊「本とあなたのポートレート」、略して「ホントレート」
43回目となる今回は、登山と旅を愛するプロダクトデザイナーが教えてくれた1冊です。
旅先で出会い、とどまることを知らずに広がり続ける彼の夢を後押ししてくれるというその本は、男に生まれてきたからにはと胸が熱くなるような1冊でした。いったいどんな「撮っておきの1冊」だったのでしょうか、早速教えてもらいましょう。
お話を伺った人
Miyachiさん
1992年生まれ。奈良県在住のプロダクトデザイナー、フォトグラファー。登山や旅を愛する男。SONYとFUJIFILMのカメラで愛妻を撮影する腕前は確かな技術に裏打ちされている。見るだけで心が浮き立つ作品はポートフォリオで見ることができる。旅やカメラについてのnoteも更新中。
地の果てにて、出会うべくして出会った、1冊。
去年出会い、仲良くさせてもらっているMiyachiさんに対する僕の印象は、妻のまり子さんの写真がすごく印象的な人だなあというものでした。時折山が好きだという話は聞いていましたが、きましたがっつり登山の1冊。日本が世界に誇る登山家植村直己さんの『青春を山に賭けて』です。
植村直己さんといえば日本人で初めてエベレストの登頂に成功、さらには世界で初めての五大陸最高峰登頂、犬ぞり単独行としては世界初の北極点到達者で、没後の1984年には国民栄誉賞を受賞しています。まさに超人というべき植村さんの著書と出会うまでの、Miyachiさんの人生もまさに破天荒そのもの。
Miyachiさんは買ってもらった自転車の補助輪が外れるやいきなり10km以上駆け回り友達と日の出を見に行ったり、中学生の頃には愛知から京都まで自転車で走ったり、山を開拓しダウンヒルコースを作ってみたり、高校時代には自転車で愛知から九州まで駆けるなど、ヒトの形をしたバイタリティといった青春を過ごしていたようです。
高校卒業後、アルバイトをするようになり、お金を貯めてバイクを手にしてからはさらに手がつけられなくなります。四国一周など朝飯前で、とにかく青看板を目印に走りまくり、ふわふわしていたのだそう(本人談)
そんなMiyachiさんですが、ある日バイクに乗車中、事故に遭ってしまいます。一時停止無視の車が突っ込んできて、気が付いた時には病院に。脾臓や様々な内臓から出血をしていて、ICUにも放り込まれたといいます。
「脾臓出血って結構危ないらしくて、500円玉くらいの血の塊があって、これが破裂したら命に関わりますって言われて。その時に死ぬのって紙一重なんだなって初めて感じたんだよね」
この時、自転車に乗り始めた頃からどこかにあった「もっと遠くへ行きたい」「日本一周とか世界一周したい」という思いが頭をよぎったというMiyachiさんは、リハビリの途中で体が万全でないにも関わらず大学を休学し、日本一周の旅に出ます。しかもママチャリで。
「行くなら今だなって。行動力とか気持ちとか、今が一番いろんなものを受け入れられそうだなと思っていた。ママチャリを選んだのはインパクトがあって面白そうだったからなんだけど、今となってはそれじゃなくてもよかったかなって思う笑」
そしてMiyachiさんは『青春を山に賭けて』との出会いを果たすことになるのです。舞台は北の大地、北海道。
2014年初夏、観測史上最長の蝦夷梅雨のせいで、身動きの取れないMiyachiさんは1泊500円のライダーハウス「蜂の宿」に滞在していました。そこには年齢や職業もバラバラな面白い旅人がたくさん集まっていたといいます。その中の1人に元高校教師だという人がいました。
同郷だというその人とMiyachiさんはすぐに意気投合。バイクで北海道を一周しているというその人は登山も好きで、一緒に雨の十勝岳や旭岳に登ったりしたといいます。そんな“先生”がMiyachiさんに『青春を山に賭けて』を勧めてくれたのでした。
「植村直己さんのことはうっすらと知っている程度だったんだけど、先生がすごくオススメしてくれた。先生が、僕はこの人に影響を受けて旅をしたくなったんだみたいなことを言っていて。読んでみたらすごく共感できるっていうか、なんて言うんだろ、行動力とか熱意とかがすごく伝わってきて。一読して影響を受けた」
運命の本に出会うというか、ふさわしい人の元にふさわしい本がやってくるというようなことを僕はいつも思っているのですが、Miyachiさんの場合はまさにそれだったのではないかと思わずにはいられません。
幼い頃から遠くへ行きたいと願っていたMiyachiさんが、死の淵を垣間見て旅立った先で伝説の冒険家の著書と出会うなんて。すごく素敵な出会いだと思います。
「植村さんの好きなところがあってね。海外の山に登るためのお金がないからまず稼がなくちゃなって、アメリカに行くんだよね。山登りじゃなくて、登るための稼ぎを得るためにアメリカに行くっていうその行動力がすごいなってのと、資金調達から冒険が始まるって考えているところが好き」
メインはあくまで登山なんでしょうが、そこに至るまでの過程も旅だという考え方、超合理化された目的達成がもてはやされることの多い現代では見失われがちな視座が、Miyachiさんには響いたのですね。
「でも超人的なイメージを持たれがちだけど、植村さんも人間なんだなって、そう思えるエピソードもあるから面白いよ」
僕などからすればMiyachiさんも超人ですから、彼のいう人間がどのレベルなのかは分かりませんが、スポットライトの当たった部分以外のエピソードを拾いながら読むのも面白そうです。
夢を呼び起こし、無限に広がっていく、1冊。
旅の途中に『青春を山に賭けて』と出会ったMiyachiさん。旅をしている実感が増し、背中を押されている感じがしたといいます。追い風を受けて旅は順調に運ぶかと思われましたが、またもトラブルが。なんとお金を盗まれてしまい生活費がなくなってしまったのです。
お金を稼ぐためにアルバイトを探し歩くうち、気が付くと稚内のライダーハウスにたどり着いたと聞き、なんで?と思わずにはいられませんでしたが、アクシデントも旅の一部と受け入れ、なんだかんだ乗り越える姿勢は植村さんの背中とダブります。
「植村さんは結構トラブルもかいくぐっていて、アメリカでこれ就労ビザじゃないでしょって逮捕されかけるんだけど、夢を語ったら逃してもらえたり笑 人間味のある感じがいいなあって」
人間味というか、どんなバケモノじみたコミュニケーション能力があったら観光ビザで見逃してもらえるの!とツッコまなかった自分を褒めたいぐらいです。
それにしても植村さんといいMiyachiさんといい、冒険をする人たちのトラブルへの対処力の高さは驚きです。
冒険家自体にはさほど興味がなく、植村さんの生き方、考え方に魅力を感じるとMiyachiさんは言います。山の頂を目指す「ピークハント」を極めた植村さんの偉業にばかり目がいきがちですが、そうではない「人間植村直己」に惹かれるのだと。
「当時は情報がないから行き当たりばったりなのも当然なんだけど、ひとたび飛び込んでしまったら、植村さんは現地の言葉をなんとか覚えて、コミュニケーションを大事にしてた。全大陸の頂に到達した本当にすごい人なんだけど、山の麓で暮らす人たちの生活に入っていって経験したもの全てを含めて登山として、ひとつの冒険として書いていて、それがすごいと思うんだよね」
この地球上の全ての頂に到達した男の背中に惚れたMiyachiさんは、最後に心に残っているという一文を教えてくれました。
こうして五大陸の最高峰を自分の足で踏み、さらにアルプスの中でも特にむずかしい冬季の北壁の登攀に成功したいま、私の夢は夢を呼び起こし、無限に広がる。
植村直己『青春を山に賭けて』
夢を追い求めて飛び出した先に、また新しい夢が広がっていて、いつまでも走り続け、登り続けるその大きな背中が少し見えたような気がします。
「僕も日本を一周して考え方が変わったとかそういうのはないんだけど、自分の足で走りきったことで、なんとなく自信がついたってのはあるかもしれない。距離の感覚が…なんていうんだろ自分自身で体感したし、今なら大陸を歩くとかだってできるんじゃないかって思うし、やってみたいって夢が広がってる。この本と出会ってなくても、結局旅はしていたと思う。でも植村さんのおかげで登山以外の楽しみ方というか、山の麓で生活している人のこととかも意識するようになったかな。その土地の食事をして、言葉を覚えて生活したいと思わせてくれる。僕にとってこの本は、やる気が湧く本、背中を押してくれる本だと思う」
広がり続ける夢を語るMiyachiさんの口調は訥々としていましたが、本当に楽しそうで、脳裏には自分が次に挑む冒険の様子がありありと浮かんでいるのだろうなと思いました。広がる夢にワクワクする人の横顔はいいものですね。
撮影を終えて
テンションはフラットで淡々としているのに、内面は男の子剥き出しだなあ、というのがMiyachiさんの印象。デザインも写真も旅も、最近では家庭菜園に音楽もと、なんでも楽しんでいる姿は見ていて気持ちがいいのです。
ここには書ききれなかった日本一周の話もまたお酒でも飲みながら聞かせてもらいたいと思いました。一緒に旅に出たら運動不足の僕はボロボロになるまで振り回されそうですが、いつかお供してみたいものです。
というわけで第43回目のホントレートはここまで。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。今後も素敵な人や本との出会いを期待して、バイバイ!
あなたと大好きな1冊の姿を写真に残しませんか?
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